大下藤次郎紀行文—
尾瀬沼
著者:大下藤次郎
長蔵小屋の売店で販売
大下藤次郎(明治3-44年)、水彩画家。明治38年『みづゑ』を創刊。水彩画の普及につとめ文章家としても活躍した。
今より14年ほど前、雑誌「太陽」の第一巻一号に、利根水源探検記があった。一行十余人で利根を遡り、藤原村より渓流を歩し、大困難を冒して一大平原の上に出た。それは尾瀬ケ原で、遙に一湖沼を見たが、それが尾瀬沼である。そしてその湖畔に小屋があって、岩代と上野との住人が物貨の交易場に宛てられてある。会津檜枝岐よりするも、上州戸倉よりするもいづれも五里ほどあって、無人の境、風光極めて佳絶であると誌してある。私はこの記事を読んだ時より、その尾瀬沼をぜひ探って見たいと思った。(本文より)